古来「水温む」
古来「水温む」は、「水ぬるむ頃や女のわたし守」(蕪村)のように、河川や湖沼の水が少しあたたまってきた状態を言った。それを「海」の水に感じているところが異色。しかし、海もむろん「温む」のである。実は、この句は坪内稔典さんの愛唱句だそうで、最近の新聞や雑誌で何度か触れている。「『あっ、そうだ。今は水温む季節なんだ』と気づいた作者は『そうなんだわ。こんな日だったのだわ。昔々、鯨が陸ではなく海で暮す選択をしたのは』と思った。つまり、水に触れたときの感覚が、哺乳類としての動物的感覚を呼び覚まし、同族の鯨へ連想が及んだのである。/私たちのはるかな祖先は水中から陸上へと上がってきた。鯨の化石によると、初期の鯨には小さな後ろ脚の跡があるという。鯨もまた、私たちの祖先と同じように、陸上生活をしていたのか。……」(「日本経済新聞」2001年2月10日付夕刊)。つづけてこの句を知って「『水温む』という季語が私のうちで大きく変わった。鮒から鯨になったという感じ」と書いているが、同感だ。掲句は「水温む」の季語を、空間的にも時間的にも途方もないスケールで拡大したと言える。
update:2009年09月09日
